【南米の皿の上】サルテーニャ


(村上幸恵:著)

今を去ること26年前、1992年12月から1993年6月にかけて、私は南米と、スペイン、ポルトガル、モロッコを周る一人旅をしていました。その旅の間、目の前に出て来た皿の上に乗っていた料理やその作り方、出会った食べ物にまつわるこぼれ話を「南米の皿の上」と題打って、エルコンパ中南米音楽愛好会の会報(注)に寄稿していました。

この度、三木山フォルクローレ音楽祭実行委員会事務局から、「南米の皿の上」をホームページに転載及び連載を依頼されましたが、これはその依頼に基づいた、会報連載第一回目の原稿を改稿したものです。

何分話が古いので、書いている内容も昔のことだし、その時行った店も今はあるのかどうかも分かりませんが、料理のレシピは今も使えるものだし、何より折角長きにわたって書き綴ってきたものを埋もれさすのは勿体ない、料理なら興味を持ってもらいやすいジャンルだし、南米にはこんな食べ物や料理があるのだということを音楽には興味のない人にも知ってもらえたら、フォルクローレの間口を広げるきっかけになるのではないかと訴えられて、私自身も書き溜めたものを何かの形でまとめたいとは考えていたのでそのお話をお受けすることにし、でも古いものをそのまま転載するのも何なので改稿しました。元の原稿の序文には読んでくださっていた読者の方に向けて、『気分次第、またリクエストによっては南米以外のスペインその他の国へもお皿が飛んで行くこともあり、どこへ行くかは“皿のみぞ知る”というところです、ハイ』などと書きました。その通りに南米以外でも、スペインであったらスペインの料理にまつわる紀行文とレシピを、バラの季節であったらオールドローズの原種に出会ったモロッコでの出来事をその料理と共に紹介してきました。時には紀行文だけでレシピがないこともあったり、その時興味を持った食物に関するコラムを書いたり、宣言通りに皿もあちこちに飛んで行ったりしましたが、基本はやはり食べ物に関することで一貫して書いていました。

そんなこんなで南米料理ものとしてはあまり統一性のない連載だったのですが、おもしろいよ、読んでます、と言っていただくこともあって、それを励みに、途中休み休みしながらも細々と書き継いで来ていました。それを再び人様のお目に掛ける次第になろうとは、恥ずかしくもうれしいことであります。

何分素人の書く拙い文章ではありますが、興味を持って読んでいただければ幸いです。

更に、この文を通じて、中南米の文化を含む全般に、引いてはフォルクローレという、私たち中南米音楽愛好家が愛してやまない民族音楽に興味を持っていただくきっかけとなれれば、望外の喜びともなるでしょう。

(注)エルコンパの会報は1989年~2016年の27年間、122号を発行。内容はコンサートの日時や場所や新しく発行されたレコード・CDなどの音楽情報、コンサートの感想、スペイン語で歌おうのコーナーや楽譜・歌詞の掲載、紀行文や中南米滞在記、フォルクローレという中南米の民族音楽や中南米の文化などに関する寄稿を書き繋いで行ったリレーエッセイ、中南米の植物を文とイラストで紹介した中南米花図鑑、新聞に掲載された中南米にまつわる記事に、中南米やスペインのことわざを紹介したもの等々多岐に渡る内容でした。

前置きが長くなりましたが、この連載を始めるにあたっての、これまでの経緯を紹介させていただきました。

それでは、いよいよ南米に向けてお皿の出発でーす!

 


 

さて、旅行中一番滞在期間が長かったのは、ボリビアという南米大陸中央部にある海のない国で、前述のフォルクローレや、アウトクトナという土着の音楽が、日常生活やその習慣に密接に結びついている土地柄の国でした。ボリビアという国はそういった音楽以外にも、伝統的な手法による手織りの織物が受け継がれていたり、ヨーロッパで人気のアルパカというラクダ科の動物の毛を紡いで糸にしたものをセーターや敷物などに加工して販売したり、特産の銀をアクセサリーや食器などの工芸品に仕立てたものを並べていたり、古代の土器のレプリカや時には出土品なども売っていたり、あやしげな呪いの道具や材料を売る通りがあったり、様々な種類の民族楽器の店があったりと、民芸品の宝庫とも呼べる国でもあります。

フォルクローレが盛んなボリビアの滞在中には、チャランゴというウクレレに似た5コースで複弦の10弦を張った小型の弦楽器を習いたかったこともあって、長めに滞在日数を取っていたから(と言っても2ヶ月ちょっとでしたが)、ボリビアが一番ネタも多かったのと、食べる回数も多くまた大好きだった、ボリビアの国民食と言っても過言ではない表題のサルテーニャから紹介したかったので、改稿にあたっても、やはり第一回目は同じくサルテーニャから始めることにしました。

エルコンパ会報掲載時にお読みいただいていた方がこのホームページに載せられたコラムをご覧になることもあるかもしれませんが、ベースは同じでも、ちょっと味付けを変えていたりするので、また新たな気持ちで読んでいただけたらと思います。

脱線してしまいましたが本題に戻って、サルテーニャとは何ぞやと言うと、要はミートパイなんですね。

スペイン語圏には、エンパナーダという、小麦粉を使った皮に肉(魚のこともある)と野菜を刻んだものを調味した具を包んで、焼くか蒸すか揚げるかした軽食があって、国や地方ごとに味付けや作り方包み方の差や呼び方の違いがある程メジャーでもあり、その分バリエーションも豊富な料理です。

ここからは、うちの旦那がエルコンパ会報最終号に寄稿した『勝手に皿の上』からの一部抜粋となりますが、このエンパナーダとサルテーニャの語源とその歴史についてちょっと紐解いてみたいと思います。

『エンパナーダとは、スペイン語もしくはポルトガル語の動詞で“パンで覆う、包む”という意味を持つ「empanar」から来ていて、スペイン語で具入りのパンまたはペイストリー「empanada」を意味しています。ではなぜボリビアではサルテーニャなのか。それは元々ヨーロッパにあったこのエンパナーダをボリビアに広めた人がアルゼンチンのサルタ州出身だったことによるもので、ボリビアの歴史家であるアントニオ・バレデス・カンディアによると、アルゼンチン作家のファナ・マヌエラ・ゴリーティーによって1900年代初頭に作られたのが最初のサルテーニャだそうです。彼女はボリビアのタリハ県と接しているアルゼンチン・サルタ州で生まれ、ファン・マヌエル・デ・ロサスの独裁を逃れ家族と共にタリハに移り住んだ。彼女は貧乏に苦しんだが当時ヨーロッパにあった惣菜パンをまねて作って売ったところ大変人気が出た。やがてサルタ出身のゴリーティーの作ったパンが「サルテーニャ(サルタの人の意の女性形:著者注)」という愛称で親しまれた。なお、ゴリーティーは後にマヌエル・イシドロ・ベルス大統領と結婚した、とのこと。』

少し長くなりましたが、サルテーニャについてより詳しくお解りいただけたかと思います。さて本文に戻りましょう。

ボリビアに滞在中、一番食べた物と言えばやはりサルテーニャです。ボリビア名物だしおいしいから、というのもありますが、実のところはふたつの理由によるのでした。

ひとつはやはり、外で独りで食べてもつまらないから、もうひとつは、買い込みが一番安上がりだからなんですね。とは言え、毎日だと飽きるので、その日によってパンを買ったり、コロッケもどきにしたり、買い食いもまた楽し。

午前中に街を歩けば、広場や市場の角には屋台のサルテーニャ屋さんがいて、その場で食べる場合には三角に切ったわら半紙(これも今はもうない紙ですね)をくるっと巻いてくれますが、大変汁気が多いので、食べる時に気を付けないと、汁がこぼれて手の平がべとべとになり、下手をすると服にまで汁がかかったりすることがあります。食堂などで食べる時は、皿の上にスプーン付で出て来るので、このスプーンをどうするのだろうと他の人が食べるのを見ていると、まず皮を一噛みして汁をちゅっと吸い、それからスプーンで中身をほじくり出して食べ、外皮は食べずに残していました。うーん、皮もおいしいのにもったいない。

また、テイクアウトの場合、大抵の店では屋台同様に紙にくるんでくれますが、カバンに入れて持ち帰る時は要注意!日本のようにプラスチックの容器などに入れてくれることはまずなく、ビニール袋もなく裸のままなので、壊れないようにそろっと運ばないと、汁が滲み出して、カバンの中がどろどろになってしまいます。私は一度これをやってしまって、そのせいで、私のチャランゴの師匠、アレハンドロ・カマラの教則本に汁の跡が残ってしまいました。

ボリビアにおけるサルテーニャの具の種類は、私の知る限りでは、牛肉だけのもの(野菜とかは別として)、牛肉に鶏肉入りのものの2種類だけでした。この鶏肉入りのものを「sarteña de pollo(サルテーニャ・デ・ポージョ。そのものずばり、鶏肉入りのサルテーニャの意。サルテーニャ屋さんで注文する時は単に鶏を意味するポージョと言います)」と呼び、牛肉だけのものは普通にサルテーニャだけで、何々のとは付きません。日本人の感覚からすると不思議なのだけど、このポージョの方が少し高い(おいしいので私はこっちの方が好きでした)。この鶏肉が、細く裂いてはあっても骨付きで入っていたりするので、時々ガチッと噛んで、ああまたかと取り出すのが常でした。この辺はおおらかと言うか大雑把と言うか。外皮の色は、食用色素を使っているのだと思うけど、オレンジっぽい黄色で、何故かこの色が食欲をそそるんですね。

余談ながら、サルテーニャにも地方差があると聞いたのですが、私が食べたところでは、店によって多少の味付けの差こそあれど、どの町のも大抵は同じような具と味でした。

この写真は、自家製石窯で焼いたサルテーニャです。石窯は火加減が難しく、うまく色が付きませんでしたが、まあサルテーニャはこんな形だという参考までに載せました。


サルテーニャの材料(レギュラーサイズ16個分)

皮用

薄力粉……………………………………………………500g

ラード……………………………………………………140g

卵…………………………………………………………1個

塩…………………………………………………………小さじ1

砂糖 ……………………………………………………大さじ1

中の具用

鶏もも肉(骨付き)……………………………………1本

牛バラ肉…………………………………………………150g

玉ねぎ……………………………………………………1個

ニンニク…………………………………………………1かけ

ゆでたじゃがいも………………………………………大1個

ゆでた人参………………………………………………小1本

ゆで卵……………………………………………………1個

トマト……………………………………………………大1個

グリンピース……………………………………………缶詰小1個

オリーブ…………………………………………………8個(種抜き輪切りが便利。その場合はお好きなだけどうぞ)

レーズン…………………………………………………大さじ1(少々の水に漬けて戻しておく)

塩…………………………………………………………小さじ1

唐辛子……………………………………………………種抜き輪切りのもの小さじ1

粉ゼラチン………………………………………………小1袋

胡椒、パプリカ、オレガノ(それぞれ粉末の物)…少々

(人参とグリンピースは冷凍のミックスベジタブルを使うと便利です。その場合は人参の茹でる工程は不要です。)

作り方

  1. 鍋に鶏肉を入れ、かぶるくらいの水を入れて、アクをすくいながら茹でる(茹ですぎないように)。鶏肉は、冷ましてから骨から肉を外し、細かく切って、塩・胡椒を振っておく。ゆで汁は捨てずに冷まして置いておく。
  2. ボールにふるった薄力粉、塩、砂糖を入れてまんべんなく混ぜ、ラードを入れて粉をまぶしながら全体になじむように揉み混ぜる。これに溶き卵を少しずつ加え、生地が柔らかくなめらかになるまでよくこねる(生地がべたつくようなら粉を少々足す)。
  3. 2にラップをかけるかビニール袋に入れて一晩冷蔵庫で休ませる。
  4. じゃがいも、人参はさいの目に切る。トマトは種を取ってみじん切りに。
  5. ニンニク、玉ねぎもみじん切りにする。
  6. 牛肉は細かく切って塩・胡椒を振っておく。
  7. 油を引いたフライパンにニンニクと唐辛子を入れて弱火にかけ、香りを引き出しながら炒め、玉ねぎを加えてさらに炒める。玉ねぎがしんなりしたら6を加え入れて炒める。
  8. 細かく切った鶏肉、戻しておいたレーズン、グリンピース、4を加え、ゆで汁をひたひたに入れ、塩、胡椒、パプリカ、オレガノで味付けしてから約12分ほど煮込む。途中アクが浮いてきたらすくい取って捨てる。
  9. 8に水でふやかしておいた粉ゼラチンをちぎりながら入れて溶かし、かき混ぜてまんべんなく混ざるようにする。バットにあけてラップをかけ、充分に冷えてから冷蔵庫に入れて固める。(ここまで全て前日にやっておくと良い)
  10. 皮を16個分に分けて、1個ずつ丸めてから麺棒で伸ばす(直径15cmくらい)。
  11. みじん切りにしたゆで卵、半分に切った(もしくは輪切り)オリーブ、バットに入れて冷やし固めた具等を適量皮の中心に置いて、上に向けて半分に折る。端を指で押しつけながら、手前に折り曲げて行き、合わせ目をきれいに塞ぐ(ちゃんと閉じておかないと、焼いている間に汁が吹き出してくる)。包み方は餃子の要領でやると分かりやすいかと。
  12. 220度に熱しておいたオーブンで約40分焼き、きつね色に色づいたら出来上がり。

 


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